toB or not toB, that is the question - BtoBとBtoCのデザインはどう違って、どう同じなのか

ogp

この記事はenechain Advent Calendar 2024の17日目の記事です。

はじめに

enechain Building Energy  Markets, Coloring Our Society

enechainプロダクトデザインデスクのマネージャーの近藤(@add_kk)です。

我々enechainは ”Building Energy Markets, Coloring Our Society” というミッションの元、国内最大のエネルギーのマーケットプレイスを運営し、主に発電事業者や電力小売事業者、トレーダーを対象に複数のBtoBプロダクト、サービスを提供するスタートアップです。

BtoBとBtoCについて、自社のビジネスを深く考えたり、あるいは転職を機に意識するデザイナーも少なくないでしょう。今回の記事ではこの違いがプロダクトデザイナーの考えるデザインにとってどのように違い、または同じであるかを考えたいと思います。

私はこれまで主にBtoCのプロダクトデザインをキャリアの中心にしてきましたが、enechainにジョインして以来、BtoBデザインと向き合う中で、新たな視点を得たり、これまで意識していなかった点に気づくことがありました。

この経験をもとに、BtoCを中心にキャリアを築いてきた方や、BtoBデザインにも興味を持ち始めた方、さらにはビジネス視点を取り入れてデザインの幅を広げたいと考えているデザイナーに向けて、本記事をまとめます。


BtoCとBtoBの基本的な違い

BtoBは「Business to Business」、BtoCは「Business to Consumer」の略称です。それぞれ、「B2B」や「toB」、「B2C」や「toC」と表記されることもあります。

BtoBは企業と企業の間で行われる取引、つまり法人同士のビジネスを指します。一方で、BtoCは企業が一般消費者と直接取引するビジネスを指します。対象となる顧客(=ユーザー)が企業なのか個人なのか、これが両者の根本的な違いです。

具体例

よりイメージしやすいように国内外の代表的な企業から例をあげてみます。

Salesforce Salesforce

BtoB企業の例:Zoom、freee、Salesforce、Slack、Stripe、Sansan、Shopify

Airbnb Airbnb

BtoC企業の例:メルカリ、LINE、Netflix、Airbnb、Spotify、Uber、Duolingo

中には、BtoBとBtoCの両方を展開する企業や、どちらの要素も含んだサービスを提供する企業も存在します。また、BtoBやBtoC以外に、CtoC(Consumer to Consumer)という形態のビジネスもありますが、今回の記事ではこれについては対象外とします。

顧客層の違いとその影響

対象となる顧客層が異なることは、購買やサービス導入プロセスの違いにも直結します。具体的には、以下の点で大きな違いが見られます。

  1. 製品評価にかかる期間

    BtoBでは慎重な評価を求められることが多く、決定までに長い時間を要します。一方、BtoCでは消費者が比較的短期間で意思決定を行う傾向があります。

  2. 決裁権者の存在

    BtoBの場合、購買や導入には複数の決裁権者が関与することが一般的です。これに対して、BtoCでは主に個人が意思決定を行います。

  3. サービスの価格帯

    BtoB製品は高額なものが多く、一度の取引金額が大きくなる傾向があります。BtoCは個人の購買力に合わせた価格設定が主流です。

BtoCとBtoB

Vertical(縦型市場)とHorizontal(横型市場)

BtoBの中でも、マーケットによって「Vertical」と「Horizontal」に分類されることがよくあります。それぞれの特徴を以下に説明します。

VerticalとHorizontal

Vertical Marketビジネス

Vertical Marketは「縦型市場」とも言われ、特定の業界やセクターに特化した製品やサービスを提供するビジネスモデルです。

例えば、農業、医療、教育、不動産、建設などに特化したビジネスなどで、enechainもまた電力・エネルギー業界に特化したVerticalになります。

専門性が高く、市場規模は限られますが、障壁もあるので、競合他社が参入しにくい領域でもあります。

Horizontal Marketビジネス

Horizontal Marketは「横型市場」で、複数の業界やセクターに共通するニーズに対応した製品やサービスを提供するビジネスモデルです。こちらの例としてはCRMソフト、ERPシステム、クラウドストレージなどがあります。

Verticalの専門性に対して、こちらは様々な業界に展開できる汎用性が特徴となります。競争は激しいですが、市場のキャパシティという面では有利です。

参考:


プロダクトデザインにおける違い

では、これらの違いはプロダクトデザインにどのような違いとなって現れてくるのでしょうか。

BtoBのプロダクトデザインの特性

  1. 業務効率化・生産性向上が主目的
    • ユーザー(=法人)は、現行の業務フローと比較し、具体的な成果(生産性向上やコスト削減)が得られることを重視します。
  2. 長期的な顧客関係を重視
    • BtoBの導入プロセスは長期的な関係を前提としています。
    • 社内での比較検討、テスト導入、決裁者の承認など複数ステップを経て、意思決定が行われます。
  3. カスタマイズ性やスケーラビリティの重要性
    • 法人の業務は多様であり、顧客のニーズに合わせたカスタマイズ性が重要です。
    • ビジネスの変化に対応できるスケーラビリティも必要とされます。

BtoCのプロダクトデザインの特性

  1. 感情的なつながりやブランド体験の重視
    • 情緒的要素やブランド体験が、消費者の選択において重要な役割を果たします。
  2. 短期的な意思決定をサポート
    • ユーザーは個人で意思決定を行い、短期間で利用開始する傾向があります。
    • ストアや広告などでの出会いから、ダウンロードや利用開始までのプロセスが簡単であることが求められます。
  3. シンプルさと直感的なデザイン
    • 消費者は選択肢が豊富なため、わかりにくい・使いにくいと感じた場合、簡単に他のサービスに乗り換える可能性があります。
    • そのため、直感的でわかりやすいデザインが重要です。

Vertical Market向けのデザインの特徴

Vertical Market向けのプロダクトデザインは、特定の業界や分野に特化しており、以下の特徴があります。

  • 専門性の高さ

    例えば、農業、医療、建設といった業界では、業界固有のニーズやフローに合わせた専門的な機能が求められます。

  • 具体的なビジネス課題の解決

    特化型であるため、ユーザーはプロフェッショナル(エキスパート)であることが多く、深い業界知識に基づいた機能が必要です。


BtoCとBtoBプロダクトデザインのまとめ

BtoCとBtoBのプロダクトデザイン

参考:

これらの違いはUXデザインにも影響してきます。


UXデザインにおける違い

BtoBとBtoCでは、UXデザインの目的やアプローチに明確な違いがあります。

BtoBのUXデザインの特性

Shopify

  1. 業務シナリオやワークフローに基づく設計
    • ユーザーの業務フローを理解し、それに適応したUXを設計します。
  2. 機能性と効率性の重視
    • 複雑な業務プロセスをサポートし、生産性向上を目指したデザインが求められます。
  3. 既存のシステムとの統合性
    • 企業の既存インフラや他のソフトウェアとの互換性を考慮した設計が必須です。
  4. 学習コストの許容
    • 初期段階で学習コストが高くても、中長期的に生産性向上やコスト削減が期待できる場合は受け入れられることがあります。
  5. 包括的なサポート体制
    • ユーザーのスキルレベルに応じたチュートリアルやツールチップの提供、専用サポートチャンネルを用意します。

BtoCのUXデザインの特性

Duolingo

  1. かんたんに理解できるUI/UX
    • ユーザーが直感的に操作できることが最優先です。
  2. シンプルさと使いやすさ
    • デザインの複雑さを最小限に抑え、ユーザーがストレスなく利用できる体験を目指します。
  3. エンターテインメント性や楽しさの重視
    • アプリやサービスに「楽しさ」や「魅力」を取り入れ、ユーザーのエンゲージメントを高めます。
  4. ユーザー心理や行動科学の活用
    • ユーザーの行動を予測し、心理的な満足感を与える設計を行います。
  5. 簡素化されたオンボーディングプロセス
    • ゲーミフィケーションや魅力的なチュートリアルを活用し、迅速に利用開始できる環境を整えます。

BtoCとBtoBにおけるデザインアプローチの違い

ターゲット市場が異なることで、目指す体験やアプローチにも以下のような違いが生じます。

1. 情報量のコントロール

  • BtoC:シンプルで直感的な体験が重視されるため、画面内の情報量を最小限に抑え、重要な体験にフォーカスします。
  • BtoB:高度に専門化された業務では、画面に多くの情報を表示し、一目で全体像を把握できる一覧性が求められる場合があります。必要な情報を削りすぎると、目的を達成できなくなることもあります。

2. 学習コストの優先度

  • BtoC:ユーザーが他サービスに簡単に乗り換える可能性があるため、「わかりやすさ」や「低い学習コスト」は競争優位性の重要な要素です。
  • BtoB:生産性向上やコスト削減といった具体的なビジネス成果が最重要視されるため、初期の学習コストが高くても、それが中長期的に回収可能であれば許容されるケースがあります。

BtoCとBtoBのUXデザインでは、それぞれのターゲットユーザーや目的に応じた異なるアプローチが必要です。BtoCはシンプルさと楽しさを、BtoBは業務効率や専門性を重視する設計が求められます。この違いを理解することで、ターゲット市場に適したデザインを実現できるでしょう。


eSquare Liveにおいて

eSquare Live

enechainの提供する電力卸取引のオンラインマーケットプレイスである「eSquare Live」では以下のように考えて取り組んでいました。

デザイン基本方針

  • 初見のための過剰なわかりやすさを求めない
  • すぐ覚えられる、すぐ探せるUIの配置を目指す

各画面や機能を作っていくための指針として立てたデザイン基本方針には上の項目を入れています。

BtoB、特にVerticalなサービスにおいては、初回アクセス時にすべてが一目で理解できることよりも、学習コストを許容しつつ、慣れた後に効率的に成果を出せる設計が優先されます。 また、たまにしか使わない機能であっても、ユーザーが一度習得した体験を基に、

  • どこからそのアクションを取れるか
  • その結果がどうなるか

を予測できることが重要です。

ツールの乗り換えコスト

ユーザ習熟度の向上と共に本領を発揮するようなツールは、既に慣れている既存ツールからの乗り換えコストがどうしても高くなります。eSquare Liveと同様の電力卸取引のためのスクリーンプロダクトは国内にはありませんが、海外では先行したツールが存在しており、高度にカスタムされたExcelなどのスプレッドシートで管理しているトレーダーも少なくありません。

既存ツールの利用による現状維持バイアスに勝つのはそう簡単ではなく、eSquare Liveへのオンボーディングをもっと進めるために引き続き取り組んでいる課題の1つです。

引き続き、ユーザーの求める体験の理解を深めながら、既存ツールが選ばれている点を正しく評価し、それを超えるプロダクトを提供するのを我々は目指したいと考えています。

プロダクトUI/UXの耐用コストをどう設定するか

プロダクトの価値は相対的にも変化していきます。我々は現在のプロダクトで価値を提供し続ける目標期間を「10年」と設定しました。今後10年の間に市場環境も規模もUI/UXの流行やベストプラクティスなどもどう変わっていくかはわかりません。それでもプロダクトを「10年勝負できるもの」とするために、担保しようとしたのはカスタマイズ性と拡張性、スケーラビリティです。表面上のスタイルはいくらでも変更は可能です。ただ、ガチガチに固められて柔軟性のない設計では構成を変えることはできません。カスタマイズ性と拡張性を考えた、変更を「許容」するデザインを目指しています。


BtoCとBtoBのデザインにおける共通点

これまでは違いに目を向けてきましたが、実際のデザインにおいては共通する点、それぞれの経験やノウハウがもう一方に活かせることも多くあります。

1. デザインプロセスやツールの共通性

  • 共通のデザインプロセス

    UXデザインの基本的なプロセス(リサーチ、アイデア発想、プロトタイピング、テスト)は、BtoCでもBtoBでも変わりません。

    • 例:ユーザーインタビュー、ユーザージャーニーマップ作成、ペルソナの設定など。
  • ツールの共通性

    現在では、Figmaをはじめとしたデザインツールやプロトタイピングツールを使い、エンジニアと連携して作業するのが一般的です。

    • コラボレーションの重要性は、BtoC・BtoBのいずれでも共通しています。

2. シンプルさの重要性

  • 可能な範囲での「シンプルさ」の追求

    BtoCでは、直感的でわかりやすいUIを求める一方、BtoBでは情報量が多くても業務効率を高めるために最適化されたデザインが必要です。

    • どちらの場合も、ユーザーが行う「主要なアクション」を明確にし、最短経路で目的を達成できるデザインが求められます。
  • 視覚的な整理

    情報の階層化や優先順位の付け方、ナビゲーションの分かりやすさといった原則は両者に共通します。

3. ブランド価値の重要性

  • BtoBにおけるブランド価値の役割

    BtoCのデザインでは「感情的なつながり」や「ブランド体験」が重要視されますが、BtoBでもブランド価値は欠かせません。

    • 特に、専門性信頼性が、BtoBにおけるブランド価値の中核を成します。
    • これにより、顧客との長期的な信頼関係を築くことが可能になります。
  • BtoCのノウハウの応用

    BtoCで培ったブランド体験の知識は、BtoBにおいてもサービスの差別化や顧客体験向上に役立ちます。たとえば、BtoB製品でも魅力的なビジュアルやストーリーテリングを取り入れることで、競争力を高められます。

BtoCとBtoBのデザインには明確な違いがあるものの、共通する要素も多く存在します。デザインプロセスやツールの共通性、「シンプルさ」の重要性、そしてブランド価値の意義は、どちらにおいても普遍的なものです。


まとめ

toB or not toB, that is the question

BtoBか、BtoCか、それが問題だ。

今回の記事では、BtoBとBtoCでは、デザインにおける優先事項やアプローチに違いがあることを解説してきました。しかし、デザインの基本的なプロセスツールは共通しています。また、「BtoCの経験しかないから」「BtoBの経験がないから」と不安になる必要はありません。最も重要なのは、ビジネスの特性ターゲットユーザーを深く理解し、それに基づいた一貫性のあるデザインを実現することです。


enechainでは一緒にプロダクトを成長させ、信頼性のあるブランドに育てていける仲間を絶賛募集中です。eSquare Liveを始めとしたプロダクトのより良い体験を目指しながら、新しいエネルギーの取引と価値を一緒に作っていきたいチャレンジングなデザイナー、エンジニアの応募をお待ちしています!