
- はじめに
- なぜイベントをやろうと思ったのか
- 前提:今回のイベントについて
- やって良かった3つのこと
- うまくいかなかった3つのこと
- 事後アンケートで見えたこと
- まとめ:次回の設計に持ち込むこと
- おわりに
はじめに
先日、Design Systems Discussionというデザインシステムのイベントを企画・司会しました。イベント運営で本当に怖いのは、明らかな失敗よりも「なんとか回ってしまう」ことだと思っています。
申込259名、満足度90%。数字だけ見れば成功です。でも企画・運営側の視点で振り返ると、当日を支えていたのは設計の力だけではありませんでした。いくつかの場面では、明らかに運に助けられていました。
この記事では、enechainのシニアデザイナーみそん(@misunkang5)がデザインシステムのイベントを企画・司会した経験をもとに、何がうまくいき、何が「設計されていなかったか」を振り返ります。イベントを企画・運営したい方や、メイン業務と並行して進められるか不安な方の参考になれば嬉しいです。
なぜイベントをやろうと思ったのか
正直に言うと、最初のきっかけは個人的な課題意識でした。
前職でも現職でも感じていましたが、デザインシステムの運用は有志で、メイン業務と並行して進められることが多い領域です。
そのため、モチベーションを高く維持し続けるのは簡単ではありません。
チームでも「中長期的にどう育てていくべきか」を悩む中で、こんな疑問が浮かびました。
「他の会社はどうやって進めているのか」
「自分たちのやり方は本当に正しいのか」
「でも、こういう話を社外とできる場がほとんどない」
同じことを悩んでいる人は、きっと他にもいるはずなのに。
でも、それを話せる場がない。
だったら、自分で場を作ってみよう。そう思い立ちました。
ただ同時に、「本当に実現できるのか」という不安もありました。
会場はどうするのか、予算は、集客は——。
そこで思い出したのが、前職であるSansanの本社オフィスに、イベント開催ができるスペースがあったことです。
退職後も良好な関係性を続けていたこともあり、「会場を借りられないか」と相談してみることにしました。
結果として、会場の提供だけでなく、企画段階から共同で進めていただけることになり、当日も複数の現場スタッフの方々に運営として加わっていただきました。
会場を「借りる」つもりで相談したはずが、気づけば一緒にイベントを作る仲間が増えていたのです。退職した会社とこうした形で協力し合えたのは、在職中から築いてきた関係性があったからこそ。
良い関係性は、会社を離れてからも資産になると、身をもって実感した経験でもありました。
そうして生まれたのが、Sansanとenechainの共催という形で開催した今回のイベントです。
前提:今回のイベントについて

Design Systems Discussion(DSD)とは
デザインシステムに関わるデザイナー・エンジニア・マネージャーが集まるデザインシステムイベントです。Sansanとenechainのデザインチーム、Devrelが共催する形で企画・実施しました。
イベント概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 募集媒体 | connpass |
| 日時 | 2026年3月6日 |
| 申込 | 259名 |
| 共同主催 | enechain × Sansan |
| 参加者数 | 約120名(オンライン85名 / オフライン30名強) |
| 形式 | パネルディスカッション+懇親会 |
| 登壇企業 | enechain・Sansan・Ubie・CADDi・Findy |
| 準備期間 | 約2ヶ月(1月〜3月) |
| 自分の準備工数 | 約50時間(MTG含む・自分一人分) |
やって良かった3つのこと
やってうまくいかなかったこともいくつかありましたが、まずはやって良かったことを記録しておきます。
全体をロードマップで管理し、動ける構造を作ったこと
正直、準備初期は「自分が全部やらないといけないのでは」という不安がありました。共催とはいえ、企画の起点は自分で、他社に「これお願いします」と言いにくい場面も多かった。そこで最初にやったのが、全タスクをNotionに洗い出してロードマップを引くことでした。
タスクを並べてみて初めて「これは自分でやる必要がない」と判断できるものが見えてくる。分担をお願いするときの判断軸は「依頼コストが担当コストを超えるなら自分でやる」というシンプルなものでしたが、これを持っているかどうかで動き方がかなり変わりました。結果、MTGも含めて自分一人あたりの工数は約50時間。週6〜7時間のコミットで成立した計算です。
事前アンケートを効率よく活用できたこと
事前アンケートは2種類用意しました。登壇社向けに「各社の運用状況」を聞くもの、参加申込者向けに「何を知りたいか」を聞くものです。
登壇社向けアンケートは当日のファシリテーションに役立ちました。各社のフェーズ・課題を事前に把握していたので、「この問いはこの会社に振ろう」という判断がその場でできました。資料として参加社に事前配布できたのも、結果的にディスカッションの理解度を上げることにつながりました。
参加者向けアンケートは「テーマ設定」に使いました。259名の申込者から出てきた関心を元にテーマを決めたので、「自分が聞きたいことが議論されていた」という手応えが事後アンケートの満足度90%に表れていると思っています。
登壇社の選定とオフラインでの事前キックオフ
5社を選ぶときに意識したのは「多様性」でした。業種・DSの成熟度・チーム規模が似すぎると、ディスカッションが「うちと同じだね」で終わってしまう。「誰かの話が自分に刺さる」状態を作るには、共通点と差異が同時に見えるラインナップが必要でした。5社は以前からご縁のあった会社や、社内外の同僚の繋がりを通じてお声がけし、最終的に全社からご承諾をいただきました。
登壇社が確定した後、全社で使えるSlackチャンネルを開設して、そこで日程調整をして事前にオフラインで顔合わせをしました。これが当日の空気に出ていたと思います。「初対面の人たちが並んでいる」という場と、「一度会ったことがある人たちが話す」場では、ディスカッションの温度がまったく違う。顔合わせをやっておいて良かったと、当日の壇上で実感しました。
うまくいかなかった3つのこと
設計できていた部分がある一方で、「なんとかなる」と思って省略したところが振り返りからも明らかになりました。
当日の役割分担を「なんとなく」で済ませていた
当日の実際の進行には、想定より多くのパートがありました。
- 会場の音響・スクリーン確認
- 登壇者のスライド受け取りと共有
- タイムキープ
- 懇親会への誘導
どれも「やれば終わる」作業です。でも、それぞれを誰が担当するのかを明文化できていませんでした。スタッフのシフト表を具体的に立てたはずが、特にオンラインのシフトに抜け漏れがありました。
改善策としては、ハイブリッド開催の場合は役割分担表を「オン・オフライン両方」で作ることです。「誰が・何を・いつまでに」を全員が共有できる状態にしておく。当たり前のことですが、「このくらいはわかってるだろう」と省略したところに落とし穴が生まれていました。
オンライン参加者の体験を、誰も専任で守っていなかった
当日はオフラインで30名強が集まり、オンラインではZoomで85名が視聴していました。オンライン側の担当として必要だったのは、主にこの2つです。
- Zoom配信の設定と当日の映像・音声管理
- Slido(質問ツール)の設定と当日モニタリング
自分は会場の司会として前に立ちながら、同時にオンラインの状況も気にかける必要がありました。でも実際には、目の前の会場に引っ張られてオンライン側への配慮が後回しになる場面が何度かありました。事後アンケートには「カメラが遠くて誰が喋っているかわからなかった」「スライドより話者を映してほしかった」という声がありました。当日、オンライン側の体験を専任で管理する人間がいなかったことが原因です。ハイブリッド運営は、会場担当とオンライン担当を別々に設けないと成立しません。「どちらも自分でなんとかできる」という思い込みが、この落とし穴を作っていました。
懇親会は「場があれば話せる」わけではない
懇親会では、参加者同士の会話を促すために「テーマ名札」を用意しました。「一番興味のあるディスカッションテーマ」を名札シールとして貼る仕組みです。
イベント後の懇親会は参加任意で、この名札を貼った30名弱が残ってくれました。
事後アンケートの懇親会スコアを集計すると、5点が44%、3点が33%という二極化した分布になっていました。「すごく話せた人」と「あまり話せなかった人」に分かれた形です。自由記述を見ると「シールがあったので話しかけやすかった」という声がある一方で、「誰に話しかければいいかわからなかった」という声もありました。
懇親会も、設計しないと機能しません。アイスブレイクのシールを配ったのは機能していたけれど、それだけでは不十分でした。「誰と話せるか」を参加者が判断できる仕掛け——たとえばテーマ別のスタンディングエリアや、自己紹介カードのような工夫——があれば、もっと接続が生まれたはずです。
うまくいかなかった3つに共通していたこと
振り返ってみると、3つの落とし穴はすべて同じ構造から来ていました。「このくらいはなんとかなる」「自分でカバーできる」という過信です。 どれも「できなかった」わけではありません。表面上は成立していた。でも「設計した」とは言えない状態だった。 明らかな失敗よりも「なんとか回ってしまう」ことだと思います。問題があっても表面には出ないまま、次回も同じ設計で進んでしまう。振り返りを丁寧にやらないと、落とし穴は落とし穴のままです。
事後アンケートで見えたこと
当日参加者約120名に対し、30名からアンケート回答をいただきました(回収率約25%)。
まずは高評価の声です。
「ネットではキラキラしたDSばかりなので焦っていましたが、やはり小さく進めてどこを目指すか言語化するが大事だなと改めて思いました!ぜひ2回目もやってほしいです!」 ― デザイナー(オンライン参加)
「事前アンケートから進行がなめらかで聞きやすかったです。自分の知らない現場の声を伺う機会は貴重で有意義でした。」 ― デザイナー(オンライン参加)
「各社とも AI など最新のトピックを交えた視点でデザインシステムを捉えられており、視座の高さを感じました。これから何をキャッチアップすべきか、多くのヒントをいただけました。」 ― エンジニア(オンライン参加)
全体の満足度は平均4.37/5で、90%が4点以上の評価でした。「リアルを語る」というイベントコンセプトへの共感度も4.33/5と高く、「ネットのキラキラしたデザインシステム事例に焦っていたけど、みんな悩んでいるとわかって少し楽になった」という声が複数ありました。
一方で、3点を付けた方の声もありました。
他社さんがどういう取り組みをしているのか、AIの波がきている今どういう状況なのかというリアルが聞けたのはよかったです。ある程度運用できている会社さんのお話が多かったので、あまりうまく運用できていない企業さんや本当に作り始めたばかりの初期フェーズの企業さんのお話ももっと聞けたらより勉強になったかなと思います。 ― エンジニア(オンライン参加)
話は興味深かったが、質問に対する回答が懇親会でしか聞けなかったのが残念です。アフターフォローがあれば大変ありがたかったです。 ― デザイナー(オンライン参加)
共通する声をまとめる次の3つでした。
- Q&Aが懇親会のみでオンライン参加者が質問しづらかった
- AI×デザインシステムの実践知をもっと深く掘り下げてほしかった
- 成熟フェーズの企業ばかりで、立ち上げ期の会社の話も聞きたかった
いずれも次回の設計に直接活かせるフィードバックです。
まとめ:次回の設計に持ち込むこと
今回の経験から、次回のイベントに明示的に組み込む設計を3点整理しました。
役割分担は「オン・オフライン両方で」文書化する。
「わかってるだろう」は省略の言い訳になる。シフト票は画面の前と会場の前、両方に存在させる。
ハイブリッド運営は、司会者がオンラインを諦める前提で設計する。
会場に立った人間がZoomの画角を同時に管理するのは構造的に無理がある。オンライン専任を置くことを前提とし、その人の動き方を事前に詰める。
懇親会は「最初の一歩を踏み出せない人」まで設計の対象に入れる。
名札シールは入り口として機能したが、入り口の先の動線がなかった。次回はテーマ別エリアや自己紹介カードなど、接続そのものをデザインする。
メイン業務と並行しながらイベントを運営するなら、構造があれば動かせる。週6〜7時間のコミットで成立した実感はある。ただし「なんとかなる」と省略した場所が、必ず次の落とし穴になる。振り返りを丁寧にやることだけが、その穴を塞ぐ方法です。
おわりに
登壇してくれたSansan・enechain・Ubie・CADDi・Findyの皆さん、本当にありがとうございました。事前アンケートへの丁寧な回答が、議論の質を大きく左右します。
参加してくださった方々にも。懇親会まで話が続いていたこと、企画者として一番うれしい光景でした。
次回のイベントも、今回の学びを活かして設計し、正直に話せる場を作ります。またお会いしましょう!
当日のイベント詳細はenechainのETさんがイベントレポートとして詳しくまとめてくれています。ぜひこちらもチェックしてみてください。
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