役割が変化する中で変わること、変わらないこと〜PdMから事業責任者へのロールチェンジ〜

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この記事はenechain Advent Calendar 2025の3日目の記事です。

はじめに

enechain Advent Calendar 2025の3日目を担当します、執行役員 eSquare事業本部長 兼 Technology本部 プロダクト企画部長の大橋(社内では「はっしー」と呼ばれています)です。

私がenechainに入社したのは約3年前。当時はまだ組織も小さく、私は「一人目PdM」としてジョインしました。 当時は、どんなサービスであってもまずはステークホルダーの意見を聞き、仕様に落とし込み、エンジニアと膝を突き合わせてがむしゃらに形にしていく日々でした。

そんな「個」の突破力でプロダクトを前に進めること。そして何より、「PdMという存在の価値を皆に認めてもらうこと」「Techの可能性を皆に知ってもらうこと」。これこそが当時の私の役割であり、生存戦略でした。

それから3年。enechainは成長を遂げ、私の役割も大きく変わりました。

現在はeSquare事業本部の本部長として、国内最大級の電力自動取引サービスである「eSquare Live」をはじめ、リスク管理SaaSの「eScan」、そしてデータサービスの「eCompass」といった、当社のコアとなる複数事業を統括しています。

プロダクトイメージ

3年前の「個」の戦いから、今は、エネルギー業界という巨大なマーケットを動かす「面」の戦いへ。ビジネスとテクノロジー、そして個性豊かなメンバーの才能を掛け合わせることで、自分ひとりでは到底到達できない「非連続な価値」を生み出し続けること。これこそが現在の私の役割であり、新たな挑戦です。

エンジニアリングとビジネスの境界線を超え、組織全体の規模が拡大する中で、かつてのように「すべてを自分で聞き、すべてを自分で決めて実装する」スタイルは、物理的に不可能になりました。 しかし、役割が変わっても「事業を成功させる」という目的は変わりません。

本記事では、一人目PdMからBiz/Tech双方を抱える事業責任者へとロールチェンジする中で、私が意識的に 「変えたこと(=やめたこと)」 と、逆に 「変えなかったこと(=守り続けていること)」 について、実体験をベースにお話ししたいと思います。


【変えたこと①】「自分が決める」から「決めるための『道』を整える」へ

かつては、すべての仕様、すべての意思決定を自分の頭の中で完結させ、決定ボタンを押すのが私の仕事でした。しかし、管掌範囲が広がり、優秀なメンバーが増えた今、私がすべてを決めることはボトルネックでしかありません。

今の私の役割は、メンバーが主導する意思決定が、組織の中で正しく機能し、結実するための「道」を整えることに変化しました。

現場の解像度と経営のアテンションの非対称性

なぜ私が間に入る必要があるのか。それは、タスクを任された現場メンバーと、その評価や投資判断を行うManagement層との間に、構造的な「情報と関心の非対称性」が存在するためです。

  • 現場メンバー: 目の前のお客様や事象に対する「解像度」が高く、短期的・具体的な課題解決に集中している。
  • Management層: 会社全体のバランスや中長期の戦略を見ている。そして、その時のフェーズや市場環境によって「今、何に関心があるか(アテンション)」が刻々と変化する。

このズレを放置したまま、メンバーがいきなりManagement会議で詳細な提案をぶつけるとどうなるか。 提案の中身自体は素晴らしくても、Managementのその時の関心事からトーンが逸れていれば、「そもそも論」で紛糾したり、本質ではない枝葉の議論で時間が溶けたりしてしまいます。

「コストの高そうなコミュニケーション」を先払いする

だからこそ、私は「コストの高そうなコミュニケーション」を事前に処理することに、以前よりも意識して取り組むようになりました。

メンバーが提案を持ってくる前に、Management層、あるいは代表や取締役・執行役員といった自分と距離が近いステークホルダーに対し、あらかじめコンテキストを接続しておきます。

「今、こういう施策を考えていて、◯◯さんに進めてもらっています。これは〜〜という背景や、全社の中長期のこの動きにアラインするものです」

このようにカジュアルに壁打ちを行い、彼らの初期的な所感や受け止めをヒアリングしておきます。そこで得た「経営の観点」を実際の推進者であるメンバーにフィードバックし、提案の視座を合わせておく。そうして事前に土壌を整えておきます。

これは単なる「メンバーのため」や「根回し」だけではありません。 そうすることで、決定の場において本質的な議論に集中でき、全社最適にアラインした結論を導き出せるからです。何より、推進者であるメンバーの「思いの結晶」である企画を、最短距離で前に進めるための、事業責任者としての責任だと捉えています。


【変えたこと②】「個人の出力」から「チームの出力」へのコミット

以前は、自分が担当した機能がリリースされ、ユーザーに使われることこそが最大の喜びであり、成果でした。「自分が顧客を、社会を動かした」という手触り感が、モチベーションの源泉だったとも言えます。

しかし、事業規模が拡大した今、私がプレイヤーとしてボールを持ち続けることは、チームの成長機会を奪うことになり、ひいては事業のスケールを阻害することとなるでしょう。 そこで意識を切り替えていってます。今の私の成果は「私個人が何をしたか」ではなく、「優秀なメンバーたちが、いかに遺憾なく力を発揮し、組織として大きな成果を出せたか」です。

「任せる」を公言し、退路を断つ

そのために意識的に行い始めているのが、会議や方針説明の場、メンバーとの1on1の場において、「ここの意思決定は◯◯さんに任せて進めてもらっています」と、主語を明確にして口に出すことです。

単なる報告のように聞こえるかもしれませんが、これには明確な意図があります。

私が何も言わずに後ろに控えているだけでは、周囲はどうしても「とはいえ、最後ははっしー(私)が決めるんでしょ?」と私の方を見てしまいます。これでは、本当の意味で任せたことになりませんし、メンバーも動きづらいままです。

だからこそ、公の場で「彼/彼女がオーナーである」と宣言(Authorize)するのです。 そうすることで、周囲のコミュニケーションパスは私ではなく担当メンバーに向くようになります。任された本人には「自分がやるんだ」という健全な責任感とオーナーシップが生まれます。

「答えを持っている」という過信を捨てる

もちろん、これは「丸投げ」や「放任」とは違います。第2章で触れたように、事前のコンテキスト共有や地ならしは済ませた上での「任せる」です。

ただ、正直に告白すると、かつての私はこうではありませんでした。

自分自身の考えや意思決定に自信があるあまり、「答えは自分の中にある(分かっている)」と過信していました。メンバーの意見を聞いているようで、その実、自分の想定解に誘導しているだけのこともあった気がします。

もちろん、事業責任者として言うべきことは言いますし、フィードバックもなるべくその場(即時)で伝えます。しかし、あくまでそれは判断材料の提供です。 議論を尽くした上で、最終的に「どうするか」を決めるのは彼ら自身です。「最後はあなたに任せます」。この一線を外さないよう、自らを律しています。

自分が手を動かす「点」の成果ではなく、チーム全体が躍動する「面」の成果にコミットする。そのためのスイッチとして、言葉の力を意識的に使っています。


変えなかったこと①】最後の砦としての「意思決定スタンス」

ここまで「任せる」話を強調してきましたが、一方で私が3年前のいちPdM時代から絶対に変えていないものがあります。 それは、「自らが意思決定する・スタンスを取る」という点です。

メンバーに任せるとはいえ、責任まで放棄しているわけではありません。 事業を進めていく中では、論理だけでは答えが出ない局面や、誰も正解を知らない不確実性の高い状況が必ず訪れます。

そういう時こそ、リーダーの出番です。 「わからないからみんなで決めよう」と逃げるのではなく、「不確実だけど、こっちに行こう。責任は私が持つ」と、リスクを取って意思決定を下す。 この「最後の砦」としての役割は、管掌範囲がどれだけ広がろうとも変わりません。


変えなかったこと②】現場への解像度と、非連続な未来への仕込み

もう1つ、事業責任者になった今でも変えていないこと、むしろより重視しているのが「顧客の生の声(一次情報)を取りに行く」ことです。

マネジメントの立場になると、どうしても会議室での報告が増え、顧客との距離が遠くなりがちです。しかし、私は意識的に顧客とのミーティングに同席し、直接意見を聞くことを大切にしています。

「Fly High」な施策を温め、実現する

なぜ現場に出続けるのか。それは、現場メンバーが見ている「地続きの改善」だけでは到達できない、非連続な成長(Fly High)を実現するためです。

現場のメンバーは、目の前の顧客課題や機能改善に全力で向き合ってくれています。それは非常に尊いことです。

一方で「今すぐには売上にならないが、将来的に化ける施策」や「既存の延長線上にはない大胆な仮説」には、リソースや時間を割きづらいという構造的なジレンマがあります。

だからこそ、私の出番です。 顧客との対話から得た深いインサイトと、事業全体を見渡せるポジション、そして投資判断を行える権限。これらを掛け合わせることで、現場レベルでは決断しにくい「Fly High」な施策を温め、タイミングを見て実行に移す。

顧客が口にする要望を叶えるだけではなく、「顧客の期待のその先へ(Beyond Customer Expectations)」を体現するプロダクトを生み出すこと(PFNさんのValueにBeyond Customer Expectationsがあってめっちゃ良いValueだなと思い使わせてもらいました)。 これこそが、今の私が担うべき最大の役割だと思っています。


おわりに

3年前、がむしゃらにステークホルダーと、開発仕様に向き合っていた一人のPdMは、事業責任者とロールを変えました。

「自分でやる」から「任せる」へ。 「個の突破」から「チームの総力戦」へ。

役割や手法は大きく変わりましたが、事業を成功させたいという熱量や、顧客に向き合う真摯な姿勢、そしてここぞという時の意思決定の責任感といった「芯」の部分は、何一つ変わっていません。

enechainは今、かつてないスピードで事業を拡大しています。 現場に権限があり、優秀なメンバーがオーナーシップを持って走れる環境。そして、それを全力で支援し、時には泥臭く道を作るリーダーシップ。 そんな環境で、私たちと一緒にエネルギー業界の未来を変える挑戦をしませんか?

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明日のenechain Tech Advent Calendarもお楽しみに!