東京ガス x enechain 合同LT大会 イベントレポート

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こんにちは!enechainのeClearデスクでエンジニアをしているヒョンスンです。

2026年3月18日(水)に、東京ガスとenechainのエンジニアリング組織による合同LT大会を開催しました。2社間のクローズドなイベントだったため外部への配信はありませんでしたが、当日の様子をレポートとしてお届けします。

今回は特定のテーマを決めず、両社から5本ずつ計10本のLTを発表する形式で実施しました。内製開発・AI活用・チームビルディングなど、結果として幅広いテーマが集まり大いに盛り上がりました。

イベント開催のきっかけ

今回のイベントのきっかけは、2025年11月に開催されたアーキテクチャConference 2025でした。両社ともスポンサーとして参加しており、カンファレンスの場で東京ガスさんのエンジニアの方々と交流する機会がありました。同じエネルギー業界で内製開発を推進している会社同士、何か一緒にイベントができないかという話が持ち上がりました。

アーキテクチャConference 2025の参加レポートはこちらです。

techblog.enechain.com

東京ガスさんは言わずと知れた日本を代表するエネルギー企業であり、enechainはエネルギーのマーケットプレイスを開発するスタートアップです。規模も歴史もまったく異なる二社ですが、「エネルギー × 内製開発」という共通軸があります。お互いの知見を共有し合うことで新しい気づきが得られるのではないか、そんな期待からこの合同LT大会が実現しました。

イベント概要

当日は東京ガスから5本、enechainから5本、計10本のLTが行われました。テーマは発表者に委ねる形式で、内製開発の組織論からAI活用、デザイン、スクラム運営まで、多岐にわたる内容が飛び出しました。

発表テーマの一覧は以下の通りです。

所属 テーマ
東京ガス 東京ガス 内製化チームの歴史と全体像
enechain 内製開発チーム拡大のあゆみと各フェーズで直面した課題
東京ガス スタートアップとは真逆? ザ・日本企業でのPMのリアルとアクション
enechain デザイナーがAIを業務に入れてみたら?一番変わったのは"自分の思考" だった
東京ガス プラットフォームチームの紹介とチームの取り組み
enechain Development of eSquare Live - 不確実性に打ち勝つ「開発スピード最大化」の3原則
東京ガス バックログの認識を揃える「Given/When/Then」の実践
enechain AIが作り、人間が見定める。変わりゆく開発プロセス
東京ガス "変化"を超える東京ガスのデザイン - 化石燃料のジレンマを超えて -
enechain 速く深く価値提供するために。育ってきた環境が違うチーム間の橋渡し試行錯誤

内製開発のかたち — 大企業とスタートアップ、それぞれのリアル

イベントを通じて最も印象的だったのは、「内製開発」というテーマへの両社のアプローチの違いです。両社のLTを聞いていると、内製開発に向き合う前提そのものが大きく異なることが浮かび上がってきました。

東京ガスさんは、既に確立されたビジネスの上で変革を進めている立場です。エンジニアリングがなくても事業は回っている。しかし、次のステップに進むためにはテクノロジーが不可欠だという認識のもと、エンジニアリング組織がなかったところからチームを立ち上げ、内製化を推進されてきました。大企業ならではの組織文化や意思決定のプロセスがある中で、いかに変化を起こしていくか。LTでは「小さな改善と成功体験を積み重ねて、変えられることを示す」という姿勢が語られていました。レガシーな部分に直面しても嘆きで終わらせず、「じゃあ自分だったらどうする?」を常にセットで考え、仲間と一緒にアクションまで持っていく。その地道なアプローチに、大きな組織で変革を推進することの覚悟を感じました。

東京ガス側の登壇の様子

一方、enechainはスタートアップとして、何もないところから成果を出さなければならない立場です。事業がうまくいかなければ会社の存続に関わる。だからこそスピードが最優先であり、創業期はエンジニア2名で「作らない・管理しない」技術選定を徹底し、限られたリソースで最大限の速度を出すことに集中しました。チームが拡大するにつれてガバナンスやドメイン知識の壁にぶつかりながらも、その都度仕組みで解決してきた歩みが語られました。

enechain側の登壇の様子

「既存のビジネスを持つ大企業が、次のステージのために内製化を推進する」のと、「スタートアップが生き残りをかけて最初から内製で走る」のとでは、内製開発に対するモチベーションもリスクの性質もまったく異なります。

しかし、両社とも、各組織の中で、「外注する」という選択肢がある中で、あえて内製を選んでいます。それは単なる技術的な判断やコストの問題ではなく、自分たちのプロダクトに自分たちで責任を持つという意志の表明だと感じました。自分たちで作るからこそ、現場からボトムアップで改善が生まれる。エネルギーという社会インフラに深く関わる領域だからこそ、外から与えられるものではなく、自分たちの手で作ることに意味がある。両社のLTを通じて、内製開発は効率化の手段ではなく、事業の未来を自分たちで切り拓くための選択なのだと強く感じたセッションでした。

プロダクト開発の現場 — 難しいドメインにチームでどう立ち向かうか

エネルギー業界のプロダクト開発には、ドメインの複雑さという共通の壁があります。電力取引や金融的なリスク管理など、専門性の高い領域でどうチームとして立ち向かうか。両社のLTを横断して見えてきたのは、「曖昧さを仕組みで潰す」という共通のアプローチでした。

東京ガスさんのmyTOKYOGASの内製開発においては、バックログの認識を揃えるために「Given / When / Then」を共通言語として導入し、enechainではアーキテクチャの意思決定をADRとしてドキュメント化しています。手法は異なりますが、どちらも口頭での曖昧な合意を排除し、チーム全員が同じ認識で開発を進めるための仕組みづくりです。

enechain側の登壇の様子

もう一つ共通していたのは、「とにかく小さくする」という姿勢です。東京ガスさんのmyTOKYOGASのスクラムチームでは「迷ったら小さく分割する」を原則とし、enechainからは「あったら便利」を勇気を持って削ぎ落とし、コアな価値の検証に集中するアプローチが語られました。ドメインが複雑だからこそ、スコープを絞って不確実性を小さく分解していくことが重要だという点で両社の考え方は一致していました。

また、開発チームとビジネスチームの協働という観点でも興味深い話がありました。エネルギー業界では、ドメインエキスパートであるビジネスチームと、プロダクト開発に強い開発チームの間にどうしても知識のギャップが生まれます。enechainからは、このギャップを埋めるために試行錯誤を重ねてきた経験が共有されました。最初は口頭ベースで手戻りが多発していた状態から、ビジネスチームがBRDを書く形へ、さらにPdMが受け入れ条件を定義してビジネスチームにレビューしてもらう形へと段階的に進化。プロセスを磨く中で、開発チームのドメイン理解とビジネスチームのシステム理解が相互に高まり、信頼関係が育っていったという話は、同じくドメインの壁に向き合う東京ガスさんのメンバーにも響いていたように感じました。

eClearチームがドメインの複雑さにどう向き合ってきたかについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。

techblog.enechain.com

デザインの役割の変化

AI時代の到来やエネルギー業界の転換期において、デザイナーの領域や働き方も大きく変わりつつあります。両社のLTからは、デザイナーが「作る人」から「問いを立てる人」へとシフトしている姿が見えてきました。

東京ガスさんからは、「とにかく使いやすさを追求する」だけの時代は終わり、脱炭素の流れの中で倫理的なデザインが求められているという話がありました。化石燃料を扱ってきた企業として脱炭素にどう向き合うか。「儲かるからやる、できるからやる」という意思決定からの決別。エネルギー業界として倫理的なYes/Noを示す勇気が必要であり、ジレンマからプライドへ(dilemma から proud へ)シフトしていくべきだという視点が語られました。個人的に、このLTはイベントの中でも特に心に残った発表でした。エネルギー業界に身を置く者として、「誇らしい選択をデザインする」という考え方にはとても共感しましたし、自分たちの仕事の意味を改めて考えさせられました。

東京ガス デザインLTの登壇の様子

enechainのデザイナーからは、AIを業務に取り入れる中での気づきが共有されました。最も印象的だったのは「AIは作業を速くするツールだと思っていたが、思考を整理するツールにもなる」という発見です。Figmaでは曖昧にできていた部分が、AIで動くプロトタイプを作ろうとした瞬間に、状態遷移やインタラクションの定義が強制的に求められる。AIに任せるための言語化が、結果として自分自身の設計意図を磨くことにつながっていたという話でした。

デザインLTのスライド

両社に共通していたのは、AIが多くのことをできるようになった今だからこそ、「人間にしかできないことは何か」を真剣に考えているという姿勢です。倫理的な判断、合意形成、そして「何をよしとするか」の基準づくり。デザイナーの役割は狭くなるどころか、むしろAI時代においてより本質的なものになっていくと感じました。

AI時代に問い直される、働き方とキャリア

デザイン領域に限らず、イベント全体を通じて強く感じたのは、AI時代において大企業もスタートアップも同じ変革の波の中にいるということです。

両社のLTでは、エンジニアリング・デザイン・プラットフォーム運用などさまざまな領域でAI活用の事例が語られました。しかし、それ以上に盛り上がったのは「AIによって人間の役割はどう変わるのか」という根本的な問いについてです。AIが「作る」部分を担えるようになった今、エンジニアは何に時間を使うべきか。評価基準や判断基準を定義すること、ドメインの暗黙知を言語化すること、チームの合意を形成すること。「何を良しとするか」を決める力こそが、AI時代にこれまで以上に求められるスキルだという認識は、両社で驚くほど一致していました。

この変化はエンジニアに限った話ではありません。デザイナーの役割、PMの動き方、さらには採用戦略やキャリアの考え方そのものまで、AI時代は全方位的に見直しを迫っています。懇親会でも採用の話題は特に盛り上がり、従来のエンジニア採用の常識が通用しなくなってきているという危機感は両社共通でした。大企業かスタートアップかに関係なく、この変化にどう向き合うかが問われている。そのことを、異なる立場のチーム同士で率直に語り合えたことが、このイベントの大きな価値だったと思います。

おわりに

東京ガスさんとenechain、規模も歴史もまったく異なる二社ですが、「エネルギー業界をテクノロジーの力でよくしていきたい」という想いは同じです。

大企業には大企業なりの、スタートアップにはスタートアップなりの挑戦があります。しかし、内製開発を通じてプロダクトに向き合い、AI時代の変化に適応しようとしている姿勢は驚くほど共通していました。異なる立場からの知見を共有し合うことで、自分たちの取り組みを客観的に見つめ直すよい機会になったと感じています。

懇親会の様子

懇親会クロージングの様子

今後もこうした交流を継続していきたいと思います。東京ガスのみなさん、ありがとうございました!


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