ドメイン知識を高速で身につけるための心得と組織の備え

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enechainでブローカー向けプロダクトとクリアリングプロダクトのPdMをしている加藤です。

さて、会社選びの観点で、ドメイン知識がない領域に飛び込むのが怖いと思っている方は多いのではないかと想像しています。一方で、業務理解が難しいドメインに身を置く会社の中の人も、そうした方が活躍するにどんなオンボーディングプログラムや体制を用意すれば良いのか困っているのではないかとも思います。

そんな方の悩みに少しでも寄り添えればと思い、領域未経験・ドメイン知識がない状態で飛び込み約4ヶ月が経った身から、オンボーディング・業務遂行の中で課題になる「ドメイン知識の習得」をテーマに、自分自身実践してみたことと、enechainのPdM陣が実践してきたナレッジ、そしてenechainの組織として備えていることを事例としてしたためます。

激深ドメインに領域未経験で飛び込んでもキャッチアップできそうだな、という可能性を示せたら嬉しいです。そして、ドメイン知識の習得は終わらない営みなので、良いアイデア・実践例があればぜひ意見交換したいです。

忙しい人向けのまとめ

オンボーディングされる側の心得

  • オンボーディング期のドメイン知識のインプットは「どこまでわかってどこまでわからないかが判断できるようになること」「スタンスを持てるようにすること」をゴールにすると区切りをつけやすい
  • インプットは業界固有の知識をインプットするマクロ的視点・プロダクト周辺の知識をインプットするミクロ的視点でやると効率が良い
  • インプットを進める上では、顧客の立場を踏まえた意見の解釈、ジャーニーの追体験、徹底的な可視化での景色の交換を意識するとGood

組織の備えの一例

  • マクロ視点を掴むための参考資料や用語集、プロダクト周辺の固有知識をインプットするための教材などがあるとGood
  • プロダクトが複数ある場合は、全社のビジョン・ミッションと各プロダクトの関連を理解できるツールがあるとキャッチアップがスムーズ
  • ドメインエキスパートとオンボーディング中の社員が連携しやすい体制があるとドメイン初心者が早期に活躍しやすい

以下のコンテンツでは、上記のポイントにおける背景や具体のアクションを補っていきます。

ドメイン知識ってどうやったら早く身につくの?

enechainにジョインするにあたって、ドメイン知識を身につけられるのだろうか…という不安は少なからずありました。

知識の習得にあたっては、ドメインエキスパートになることが得意なプロたちのやり方を参考にしました。参考にしたのはコンサルタントの知識習得方法。コンサルタントはゼロからドメインエキスパートになるプロだと感じていたので、その習慣は良いアナロジーになりそうと感じました。

社内の元コンサルタントのPdMの実践例と世間のナレッジを集約すると、

  • 業界や事業領域の構造と、事業のバリュープロポジション双方を理解すること
  • インプットにあたっては、書籍・ユーザーヒアリングやドメインエキスパートのインタビューを活用すること

が共通項でした。これから紹介する実践例はこの考え方を大いに参考にしています。

ドメイン知識習得までの実践例

インプットにおいて意識したこと

プロダクト開発する際に、特に自身の役割であるPdMがドメイン知識として求められるものを元に、マクロ情報・ミクロ情報と定義してインプットしました。

マクロ情報とは、業界固有の知識です。例えば、

  1. 業界のエコシステム:どんなプレイヤーがいて、どんな役割を担っているのか
  2. 業界のトレンド:法規制や世界情勢などの外部要因から、事業がどんな影響を受けるのか

が含まれます。

ここでのゴールは、「わからない用語をググったり聞いたりできるようになること」としました。

ミクロ情報とは、担当プロダクトに関連する知識です。例えば、以下が含まれます。

  • 担当プロダクトのミッション:会社のビジョン・ミッションを達成する上でそのプロダクトが果たす役割は何か
  • 3C分析:顧客は誰で、代替手段は何で、自社の強みは何か
  • ユーザージャーニー:担当プロダクト周辺で、ユーザーがどんなワークフローを体験していて、どう感じているのか
  • アウトカムが出るまでの変数:プロダクトが成果を出すまでにどんな変数があり、現状と伸び代はどれくらいか

ここでは、「自身の職責において、スタンスを持てるようになること」をインプットのゴールとしました。

各知識のインプットの進め方:実践例

ここからはenechainが属するエネルギー業界、電力業界を例に取り上げます。

業界のエコシステム

該当する業界の書籍を読むことが多そうですが、ありがたいことにenechainでは『電力システムの基本と仕組みがよ~くわかる本』(通称「緑本」)を提供していただけたので助かりました。

派生として、ビジネス小説(『エネルギー』)を読んでいた人もいました。確かに業界用語や習慣をインプットするにはぴったり。

業界のトレンド

業界の市場調査レポートや担当省庁の出している資料を元にインプットすることが多いトレンド情報ですが、enechainは経済産業省の統括領域なので、エネルギー計画や審議会の議事録からインプットしました。

入社する際にPdMデスクゼネラルマネージャーのはっしーさんからenechainが関わる審議会の議事録を紹介いただけたのもありがたかったです。

担当プロダクトのミッション

enechainでは、ミッションを達成するために何をすべきか?の戦略羅針盤である「Fly High」という社内資料があります。

enechainは卸取引マーケットの流動性を支えるプロダクト群が複数あります。

  • ミッションを達成するためにどんな課題があり
  • プロダクト群やプロジェクトがどの課題を解決するために開始されていて
  • どんな役割を担っているのか

が記載されています。

オンボーディング期間に経営陣からこれについてインプット・質疑応答ができる機会があったので、ありがたく活用しました。

ドキュメントの目次。これまでの会社の取り組みも記載されているので文脈を理解しやすかった。

ドキュメントの目次。これまでの会社の取り組みも記載されているので文脈を理解しやすかった。

3C分析・ユーザージャーニー・アウトカムが出るまでの変数

顧客ヒアリングと既存ドキュメントの活用・チームメンバーとの景色の交換でキャッチアップを進めました。

特に、これらのインプットにおいては試してみて役立った3つのtipsと、オンボーディングプログラムの中で助かった2つの要素を紹介します。

(1)登場人物を意識した顧客の声のインプット

(2)実体験が難しいユーザージャーニーの仮想体験

(3)怖い・恥ずかしいを捨てたアウトプット

(4)業界の暗黙知をまとめた業務理解ドキュメント群

(5)ドメインエキスパートと連携しやすい社内体制

(1) 登場人物を意識した顧客の声のインプット

PdMチームでもナレッジとして上がっていたのがこの要素です。

enechainが取り扱っている電力会社向けのリスク管理システムや自動取引システムは、担当者の役割やこれまでの経歴・嗜好性によって捉え方が異なります。

また、これはエンタープライズ企業向けのプロダクトではあるあるですが、システムの導入に好意的な人なのか・そうでないのかという意見もそれぞれの立場によって異なります。

そのため、顧客ヒアリングにおいては、顧客の「立場・役割」を意識しながら、

  • この顧客がこう発言するのはどんな背景があるからか?それを踏まえると、どう捉え直せるか?を考えること
  • 特定のクラスタの意見に左右されないよう、複数の立場から多角的にヒアリングすること

を意識できると、良い示唆を得られる感覚があります。

インプットのhowの例として、「SFAやCRMにたまっている生の声を分類してバックログを作るワークは良いオンボーディングになった」という声もありました。

(2)実体験が難しいユーザージャーニーの仮想体験

ユーザー理解においては、よくhowとして顧客の現場に行くくらいどっぷりワークフローに浸かることを勧められますが、enechainの取り扱う「電力の卸取引」の世界は、1回の取引で億単位のお金が動くため、素人が体験することが難しい領域です。

だからといって、ユーザージャーニーがわからない状態が続いてしまうとスタンスをもつことが難しい…。そんなジレンマの中で試行錯誤した中で良かったことは「ジャーニーの仮想体験」です。

ジャーニーの仮想体験の1つの例として、卸取引の仲介を担うブローカーの業務理解をすることを目的に、ブローカーとお客様の役割を開発メンバーで割り振り、取引を想定した台本を作成してロールプレイングを実施しました。台本を作成する際に実務を担うブローカーに監修をしてもらったことで、ブローカーとお客様双方の思考回路と振る舞いの疑問点を表面的でなく心の底から納得感を持って実施できました。

(3)怖い・恥ずかしいを捨てたアウトプット

オンボーディングされる側は少なからずこれまでの経験をアンラーニングし、ジョインした組織のカルチャーや仕事の進め方をインプットすることが必要になります。

この過程では、頭で考えたり発言している「理解できた」と思えているレベルが既存メンバーとずれる可能性が大いにあります。

そのため、できるだけ頭の中の理解をビジュアライズするように努めていました。かつ、ビジュアルに起こしたものをチームにさらけ出して「こんな理解をしているが、ずれている?もっと必要?」というインプットの期待値をすり合わせました。

10%でも20%でも良いのでとにかくアウトプットした例

10%でも20%でも良いのでとにかくアウトプットした例

その結果、言葉では伝わらなかったちょっとしたズレを軌道修正できて、チームとのコンテキストを合わせやすくなり、前任者からの引き継ぎがスムーズになりました。

(4) 業界の暗黙知をまとめた業務理解ドキュメント群

ここからはenechain組織に仕組みとして備わっていて助かったものたちの紹介です。

enechainがフォーカスしている「電力の卸取引市場」はGoogle先生で調べても用語すらヒットしない領域です。

その中で事業推進に必要なドメイン知識を身につけられるよう、以下のようなドキュメントが用意されており、キャッチアップの助けになりました。

①事業ドメインの用語集

日々の会話で当たり前に使われるがググっても出てこない用語をカバーしたデータベースです。

入社してすぐは打ち合わせで初めて聞く言葉だらけなので、話についていくためにこのデータベースに頼っていました。

社内のドメインエキスパートが作成してメンテナンスしています。

電力関連用語集

②業務知識をレクチャーする動画

卸取引の流れや背景にある仕組みを解説した、合計約2時間半の動画です。

電力の卸取引は金融商品に近い取引も含まれるため複雑な領域でしたが、いつでも動画を参照できたおかげで自分のペースで業務理解を進められました。

業務知識をレクチャーする動画

③用語の理解度チェック

インプットする情報量が多いからこそ、表面的に理解して満足してしまうこともあります。

理解度をチェックできるテストは、業務に使えるくらい理解できているか?を確かめるものさしとして役立ちました。

用語の理解度チェック

(5)ドメインエキスパートと連携しやすい社内体制

これが最もドメイン知識の早期習得に役立った点かもしれません。PdM陣からもドメイン知識キャッチアップの上で意識したこととして「ドメインエキスパートにとにかく頼る」ことが挙がっていました。

その前提に、ドメインエキスパートに頼りやすい環境作りと組織設計がありました。ドメインエキスパートがプロダクトチームにもいること、また「いつでも質問してOK」というウェルカムなスタンスであることに加え、入社初期からランチ・モーニング・歓迎会とあらゆるオンボーディング接点で会話する機会があったことで心理的障壁がない状態でコミュニケーションを取れることがとても助かりました。

さいごに

ここまでのまとめは忙しい人向けのまとめを参照ください。

領域未経験・ドメイン知識がない状態で飛び込み、いちばんのハードルになるドメイン知識の習得は先人が整えてくださった組織の仕組みと紹介した心構えで乗り越えたように思います。

enechainや、他の企業でも然り、ドメイン知識がない領域に飛び込もうとしている方のご参考になれば大変嬉しいです。

enechainでは各種ポジションを積極採用中です。少しでもご興味をお持ちいただけましたら、カジュアル面談からでもお気軽にご応募ください。

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