スタートアップにおけるサクセッションプランニング~育成、採用、権限委譲~

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こんにちは。enechain CTOの須藤 (@sutochin26) です。

今更ながらグランメゾン東京にハマっています。キムタクも相変わらずカッコいいですが、丹後シェフが良いキャラしてますね!映画を観るのが楽しみです。


さて、グランメゾン東京も組織作りについて考えさせられる作品でしたが、本記事でも組織作り、特にサクセッションプランニングをテーマに書いていこうと思います。

我々のようなテックスタートアップの特徴の1つは、組織が急速に拡大することです。我々enechainも、私が入社してからの3年余りで、組織が30人規模から200人規模へと大きく拡大しました。
このような急成長の中では、計画的な後継者育成・採用が極めて重要になってきます。
うまく権限を委譲していかなければ、自身が意思決定のボトルネックになるだけでなく、SPOF(単一障害点)となり、事業上のリスクにもなってしまいます

本記事では、私自身が試してきたサクセッションプランニングの取り組みと、そこから得た学びをお伝えしたいと思います。
これからご自身の業務を誰かに引き継ごうと考えているテックリードやEMの方々、これから組織を大きく育てていこうとしているマネジメント層の方々に、何かしらのヒントになれば幸いです。

サクセッションプランニングとは

サクセッションプランニングとは、もともとは戦略的に経営者や経営幹部の後継者を育成・選定する取り組みを指す言葉です。最近では経営幹部に限らず、組織の中で重要なポジションの後継者育成を指す言葉としても広く使われるようになってきました。
サクセッションプランニングの目的は組織の持続的な成長とリスク回避にあり、日本ではコーポレートガバナンス・コードで言及されたことから、上場企業の責任として注目される機会が増えているようです。

主に大企業で注目されるサクセッションプランニングですが、本記事ではスタートアップにおけるサクセッションプランニングに焦点を当て、内部育成だけでなく採用まで視野を広げてお話しします。

スタートアップは状況の変化が激しく人材の流動性も高いため、内部人材の育成によるサクセッションに加えて、採用によるサクセッションも常に視野に入れる必要があります。また、今ある役割だけでなく、これから生まれるかもしれない新しい役割についても考えておくことが大切です。

例えるなら、スタートアップにおけるサクセッションプランニングは、走りながら自転車を組み立てるような取り組みと言えます。

組織づくりのプロセス

私がenechainに入社したのは2021年の10月。当時、社員数は30人ほどでした。
enechainが掲げるビジョンは非常に大きく、明らかに少人数で実現できるようなシステム規模ではありません。
初期メンバーにはマネジメント経験者も少なく、場当たり的な採用ではうまくいかないことは明らかでした。重要なポジションを見極め、的確に採用するための、中長期的な組織計画と採用計画が必要でした。

では、中長期の組織計画を立てる上で私が取り組んできたことを、順を追ってご紹介します。

Step1. 事業ロードマップを理解する

組織の形や必要な人員は、事業の状況や計画によって変わってきます。将来的なサクセッションを考える前に、まず事業ロードマップをしっかり理解することから始めました。
CEOとの話し合いを通じて、KGIからブレイクダウンした達成すべき営業目標や開発すべき機能などを把握していきました。
詳細は伏せますが、当時は自分の手元で以下のようにロードマップを可視化していました。
おおよそ、いつ頃までにどのマイルストーンを達成したいかという目標も話していました。

ロードマップ

この段階ではシステムのイメージはまだかなり粗いものでした。大まかに「複数のサービス群で構成され、共通の認証認可システムを使い、XXXの機能が技術的に難しくなっていきそうだ」という程度の理解でした。

Step2. 将来の組織構造をイメージする

次に、将来的な開発組織の構造をイメージしました。
当時は完全にフラットな組織(プロダクトが3つとSRE1名だけで、階層なし)でしたが、将来像として以下のようなスライドを作っていました。

将来の組織図イメージ

最初の時点では人数も構造もかなり大雑把なイメージでしたが、「組織のレイヤーを増やす(「本部」と「デスク」の間に「部」を設ける)」、「プラットフォームとプロダクトで分ける」という考え方は、今の組織にもそのまま反映されています。

部ができれば部長が必要になり、育成か採用のいずれかで人材を確保できなければ自分自身が担当することになります。まだ小さな将来像でしたが、こうしてサクセッションプランの必要性が見えてきました

この「1~2年後をイメージして組織図を描く」という取り組みは今も続けています。
今作っている将来の組織図では、採用予定のポジションも含めて個人レベルまで細かく可視化しています。
こちらが最近作成した将来の組織図イメージです。だいぶ人が増えました。

将来の組織図イメージ2

Step3. 自身の役割を整理する

Step2で描いた将来の開発組織イメージには、「Aさんが成長した結果このポジションに就く予定」、或いは「採用予定」といったポジションが含まれています。そういったポジションは、今は別の誰かが担っているか、まだ誰も手をつけていないということになります。
自分自身が今どんな役割を担い、各役割でどんな仕事をしているのかをハッキリさせることで、将来の組織図の中で誰に何を委譲するのかを明確にできると考えました。

そこで作成したのが、以下のようなマインドマップです。

マインドマップ

自身に紐づくロールを書き出し、濃いオレンジ色で示しています。
そして各ロールに紐づくタスクを書き出し、特に悩んでいる部分には赤い印、少し悩んでいる部分には黄色い印をつけています。
さらに、委譲予定のロールには委譲先の人物をグレーの枠で示しています

サクセッションを実行すると、このマインドマップからロールが1つ外れるイメージです。ロールに紐づくタスクもすべて一気に剥がれて、委譲先に移ります。(この瞬間はかなり気持ち良いです)

黄色や赤の印がついている仕事を委譲する時は引き継ぎに注意が必要です。現状どのような課題があり、どのように改善して欲しいのか、何に気をつけるべきなのか伝えるようにしています。
委譲によって課題が解決されるならば、それはきっと良い委譲なのだと思います。

余談ですが、このマインドマップは、自分の頭の中を整理するのにとても役立ちました。  

自身のマインドシェアがどこに割かれているのかがひと目で分かるだけでなく、「気づいたら増えていた」という類のタスクをロールに紐づけて整理できます。実は自分がやるべきではないタスクであったり、知らぬ間に誕生していたロールに気付けたりします。
上長との1on1で、このマインドマップをそのまま見せて状況共有することもありました。

Step4. 委譲先を選定し、権限を委譲する

こうして整理した将来の組織図とマインドマップをもとに、将来的に誰にどのロールを委譲するかを検討しました。
メンバーの成長スピードと事業の拡大ペース、そして該当ポジションに求められる難易度などを見ながら適任者を探していきます。社内に適任者がいない場合は外部からの採用を計画し、新たなアサインイメージを将来の組織図に反映させました。

そして優先度に応じて採用や育成を進めていきました。

だいたい半期ごとに、Step2,3,4(必要に応じて1も含めて)に取り組み、今後の組織について考え、実際の行動に移してきました。
最初は私一人で考えていましたが、今はTech本部のゼネラルマネジャー4人で意見を出し合いながら進めています。

振り返り

こうした取り組みを通じて、実際にいくつものサクセッションを実現してきました。
その中で感じた手応えや、「ここはもっとこうすれば良かったな」と思う点を共有します。

良かった点

  • 自分自身のボトルネック化を避けられた
    • 組織が大きくなっても、初期のマネジメントメンバー(私)に意思決定が集中して全体のスピード落ちるという事態を回避し、負荷分散もできました
    • 同時にリスク分散もできました。私1人が病気になっても、今の組織ならばなんとかなりそうです
  • 採用の期待値が明確になった
    • 役割をクリアにした上で採用していたため、採用後に「何を期待されているのか分からない」という状態になることはありませんでした
  • クリアな責任・権限委譲ができた
    • マインドマップを作る過程で「このロールはまるごとこの人に託すんだ」という意識が自然と生まれ、中途半端な引き継ぎを防げました
    • 説明する際も、ロールに紐づく責任と権限をマインドマップベースで具体的に伝えられました
  • 採用と育成のバランスを適切に判断できた
    • 「このポジションは採用、このポジションは育成、このポジションは自分でどうにかする」という意識を明確に持つことで、時間の使い方に迷いが出なくなりました

反省点

  • 委譲手段(採用計画等)の具体性をもっと高めるべきだった
    • 例えば、SREやプラットフォームエンジニアの採用は、以下のような理由で長期化してしまいました
      • 私を含め、社員の人脈にこういったポジションの知り合いが少なく、リファラル採用がうまく機能しなかった
      • これらのポジションは、ある程度サービス規模がある方が採用時の魅力になりやすく、スタートアップでは採用が難しいポジションだと後から気づいた
      • 担当者(私自身)のこれらのポジションに対する技術的・文化的な理解が浅かった
    • こうしたポジションについては、該当ポジションに対する解像度の向上、中長期的な人脈形成や技術発信の必要性を早期に認識し、実行すべきでした
  • 役割をクリアに委譲した上で、最初のサポートはもっと手厚くすべきだった
    • 一気に責任と権限を渡せば、受け取った側は大変です。かといって中途半端な状態が続くのも良くありません
    • 委譲直後に、お手並み拝見的な状態(サポート不足)になってしまい、混乱を招いたことがありました
    • 「○ヶ月後には完全に任せるね」という合意を取った上で、それまでは手厚くサポートする方がスムーズだったと思います

プランニングにより良い効果が得られた実感はあります。
ただ、どんなに丁寧に計画を練って人材を採用・育成しても、最後の委譲の段階でつまずくと全てが台無しになってしまうリスクもあります。
ここは組織として再現性を持って成功させられるよう、仕組みや心構えをもっと整えていく必要がありそうです。

おわりに

この記事では、スタートアップにおけるサクセッションプランニングについて、私自身の経験をもとにお話ししました。
スタートアップでは計画通りに物事が進まないことも多いですが、それでも計画的に取り組むことの重要性は変わりません。特に育成や採用は短期間で成果が出るものではなく、長期的な視点と計画性が求められます。

これまで、私たちの組織では重要なポジションの人材確保は主に『採用』によって行われてきましたが、今後は『育成』の大切さがより増していくと感じています。
長く会社にいるメンバーはカルチャーへの理解も深く、存在感も大きいです。そういったメンバーが重要なポジションを担えるよう成長の機会を提供していくことも、私の大事な役割だと思っています。
育成についてはまだまだ模索中ですが、いずれまた記事にできればと思います。

enechainでは積極的に採用を行っています。今回のようなマネジメントの話を一緒に考えてくれる方、共に成長していける方からのご連絡をお待ちしています。

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